うさみみ

すきなものはすき

いかにしてオタクが浪費をやめて断捨離を愛するようになったか

 
私はかつてある作品のグッズを片っ端から買い漁っていた。
作中のあるキャラクター(以下A)が好きで好きでたまらなくて、世に出回っているAのグッズを集め始めたら止まらなくなった。
 
初めの頃は部屋にAのグッズがひとつずつ増えて、Aのグッズで部屋が満たされることに純粋な喜びを感じていた。いちばん可愛い推しの絵をどこに飾ろうか、毎日が楽しい悩みでいっぱいだった。関係ない日用品もAのテーマカラーのものを買ったりして、私の世界がA色に染まっていくことがただただ嬉しかった。
 
それから少しずつAのグッズにかけるお金や時間が増えていった。アニメイトに行けば必ず次の新作グッズの予約をし、SNSではグッズの交換や譲渡を探す日々。その頃にはキャラクターの絵柄があるグッズだけでなく、イメージカラーのアクセサリー*1とか、作品モチーフの誰得食器とか、わけのわからないグッズにも手を出すようになっていた。幸か不幸か、えてしてダサいことが多いアニメ系グッズの中でも自ジャンルはまだマシな部類だったのも購入に拍車をかけた気がする。とんでもなくダサいものは描きおろし以外さすがに買わなかったし…。
 
 
それがおかしくなったのはいつ頃だろう。
SNSでグッズを同種異種問わずたくさん持っていることをステータスとする風潮が広がり、グッズを買えば運営へお金が入り作品が存続できるという言説が流れるようになった。*2そのため私のいた界隈ではグッズとは基本的につべこべ言いながらもおとなしく買うものであるという認識が出来上がっていた。つべこべ言うなら買うなよ…。と言いたくなるところだが、「自分の推しキャラの人気が低いと運営に思われては困る」という切実な事情も各キャラのファンにあったはずだ。Aはどちらかというと不人気で、実際私はそういう思いも持ち始めていた。
 
また、新作グッズをあんなにダサいダサいと連呼していたはずの人が「今日通販で届いた〜」とSNSに書いていたことが幾度となくあった。買うんかい。ただ単なる報告のつもりで書いている人も多いだろうが、「新作グッズがどれだけダサかろうがきっちり買って運営に貢献している私」というニュアンスも多少はあったように思う。それを見ると「新作グッズが大変ダサかったので買わないことにした運営に貢献してない私」はどうにも肩身が狭い。そして次はそうならないようにと、大して欲しくもないグッズをぽいぽいとカートに入れてはポチるようになっていった。口座の残高を少しだけ気にしながら。
 
いつの間にか、あんなに集めることが楽しかったAのグッズは「大して欲しくない」グッズへと成り下がっていった。かつてAのイラストをどこに飾るかで悩んでいたはずの部屋には、気づけば開封すらしていない通販の段ボールが積み上がっていた。これって、誰のために、何のために買ってるんだろう?
 
3次元のアイドルやタレントなら、生写真や個別グッズの売り上げがいくらかお給料に反映されるかもしれない。タレントの売れ具合によってはいわゆるライフライナーのようなこともできるだろう*3。それらはどんな商品でも「推しの生活を支えるため」という強力な購入動機になりうる。でも、2次元のキャラクターにはお給料がない。生活費もかからない。*4架空の存在を愛している以上仕方のないことではあるけれど、自分の注いできたお金や時間は、誰の血肉になったのだろう?ダサいグッズを作った人?だとしたらダサいグッズを買う→このレベルのデザインでも売れるやんヘッヘッヘ→またダサいグッズが出る→グッズ買う→以下ループ、ということになりはしないか?さすがにこれは思いっきり性悪説に振れてしまったけど、折角作ったグッズが箪笥の肥やしではグッズも作り手も浮かばれないだろうという思いもあった。
 
今更ではあるがここで少しアニメグッズ収集というジャンル?について記しておきたい。アニメグッズ収集というのはあまたのオタク活動の中でもマウント合戦が活発に行われている界隈だと思う。中古で数千円するレア物の缶バッジ(定価数百円)をいくつ集めたとか、確実に推しを手に入れるためにくじを複数ロット買いしたとか、舞浜のクマのごとく推しキャラのぬいぐるみと一緒にお出かけした写真をアップするとか、同じグッズをひたすら集めて推しのグッズで溢れる自室の様子を自虐に見せかけて自慢するとか、新商品が出たら「この絵柄〇〇の使い回しじゃ〜ん」という謎の古参アピールを始めるとか、とにかくあらゆることがマウンティングのネタとなる世界である。
 
そして痛バという究極マウント兵器のことも書いておくべきだろう。かばんに缶バッジやストラップをジャラジャラつけている、あれ。知らない人は画像検索でググってプリーズ。最近のことはわからないが私が界隈にいた頃、痛バを持っていく現場は「いかに大量のグッズを持っていることを自慢できるか」という一大品評会と化していた*5。しかし大量のグッズで知り合いを牽制するわけではない。その場に集った見知らぬ同担を殺すために夜な夜なせっせと缶バッジをかばんに装着するのだ。もはや推しが可愛いかどうかなんてこの頃にはどうでも良くて、ただただ他のオタクより優越感を得ることだけに集中していたのだろうと今になって思う。もう、グッズを買うことは全く楽しくなかった。税金でも納めるかのごとく淡々とクレカ番号を入力していた。
 
当時の私は予算という概念もなくグッズをとにかく見境なく購入していたため、本格的にグッズを買い漁り始めてから数年でついに貯金の底が見え、いよいよ資金繰りが苦しくなってきた。次第に服や化粧品をケチるようになり、美容院へ行く回数が激減した。マスカラはいつも乾いていた。靴底は擦り減って、髪は常にプリンだった。
 
楽しくもないことに多額のお金とかけがえのない時間を費やして、その結果が段ボールまみれの部屋とどこかチグハグな安っぽい身なり。
 
もう、潮時だと思った。
 
 
 
 
 
結局、数年間で車が買えるくらいの金額*6をAや掛け持ちの他作品に費やしたあと、グッズ収集と当該ジャンル、およびすべての出費を伴う2次元オタク活動から卒業した。
 
当該ジャンルからのオタ卒はまた作品展開に絡む別の問題があるのでここでは取り上げないが、作品展開にファンとして正直嫌気が差していたこともグッズ収集が楽しくなくなった理由に含まれるかもしれない。
 
私の場合、「推しが可愛いのでグッズを買う」が「推しを支えるためにグッズを買う」となり、それはいつしか「コミュニティでのステータスを維持するためにグッズを買う」にすり替わってしまった。私にとっては、「金でステータスを維持すること」より「推しが可愛いという純粋な気持ちを維持すること」のほうが何倍も難しい気がする。特にSNSを核としたファン活動の中では。
 
以前はグッズを見れば「推しちゃんが今日も可愛い♡推しちゃんを可愛く印刷してくれた印刷所さんありがとう♡♡」と全方位に謎の感謝を振りまいていたのに、卒業を決めた頃には「抱き枕?…うん…絵やな」としか思えなくなってしまっていた。まるで金銭感覚のおかしい大富豪が札束を紙切れのように扱うかのよう。
 
Aに対しては純粋に可愛がっていたはずがいつの間にかマウンティングの道具にしてしまったことを申し訳ないと思っている。しかし仮想敵との戦いの苦しさを思い出してはつらくなるので今もまだあまり顔を見たくないというのが正直なところだ。
 
このエントリを書こうと思ったきっかけは劇団雌猫さんの『浪費図鑑』である*7。私が2次元のオタクを退いた後だったが、もともとオタクや腐女子の生態に関心があるので迷わず買った*8。本に出てくるオタクたちは"推しのために"という対象がブレることなくお金を使って幸せにオタクライフを送っているようにわたしには見えた。それはそれは眩しかった。「推しが可愛いという純粋な気持ちを維持すること」ができる人はお金や時間をどれだけ注いでもきっとオタクライフにおける幸せを感じ続けることができるのだろう。もしかしたら今なにかにのめり込んでいない人でも、『浪費図鑑』にあるようなぶっ飛んだお金の使い方を武勇伝的に受け取ってわあ!楽しそう!と思ってしまう人がいるかもしれない。愛をお金で表現できるのは素敵で便利なことだ。愛は形ですもの。資本主義バンザイ。しかし一方で、「浪費」が本当にただの「浪費」になってしまうこともあるのだということをインターネットの片隅にでもそっと書き置いておきたい。
 
現在はグッズを集めまくった反動からかミニマリストを志向している。あれだけゴテゴテの痛バッグで歩いていたのに今や「カバン?財布と携帯とリップしかないよ♡」である。これだけ振り切れるとどうももう一回反動がきそうな気はするが、そんな日は来ないことを祈りたい。
 
 
最後にここだけは声を大にして申し上げたいが、もうモノは持ちたくないと思っているのにジャニーズさんはなかなか音楽配信を許可なさらないので大変困っている。早急になんとかしてほしい。未開封段ボールが全て片付いた部屋からは以上です。
 

 

浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)

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*1:公式グッズ。今考えるとまあまあダサい

*2:しかし実際のところ2期が見たいならグッズよりもアニメの円盤を買ったほうが効果的らしい

*3:それがいいか悪いかは別として

*4:もちろん素晴らしいキャラを生み出してくれたイラストレーターさんとか、感謝の意味でお金を払いたい対象は存在する

*5:主な現場は声優さんが登壇する公式イベントなど。先述のくじ発売日や同人誌即売会のような同ジャンル者が集まる日にも見られる

*6:軽潔癖で中古は買わない主義なのとグッズを買うためだけの遠征費が地味にでかい…

*7:同人誌は読んだけど商業誌版はまだ読めてないですすみません

*8:cakesの「ハジの多い腐女子会」も大好きです